From Nowhere To Somewhere ?

ビートルズの曲名から名を採った無定見、無我、無帰属の男が、どこかに辿りつけるのかという疑問文(題名、字面通り)

原発を家計から見た議論の端緒

高所局所、大上段からの議論ばかりだと、(日本特有の症状とは限りませんが)政治不信や大企業不信が相まってグッタリしてきます。グッタリ感が長期化すると、自暴自棄になり、ないまぜになって、「被災地支援などのために値上げが必要だってのなら公益にも合致するし、しょうがねぇ、てやんでえ、べらんめえ」ってな勢いで、ハイ電力値上げ追認ということになってしまいそうです。

この点で、家計サイドから見た、示唆に富んだブックレットと思われる本(税込525円で財布にも優しい)を見つけたのでご報告いたします。

経済学者が書いておられるので、数値的な議論としては確固たる根拠を示しながら進めておられるようです。もっとも、経済学者同士で論陣を張れば、ある統計データを巡る解釈や線引きの仕方が立場により異なるということもよくあることかもしれませんが、少なくとも、この本は庶民サイドから噛み砕いた問題提起をされようと試みておられます。

まだ僕も買ったばかりなので完読はしてないのですが、善は急げというわけで、メモを残すことにしたのです。

日々、「電気代値上げとは、東京電力が被災地への賠償をする中で足りない分を補填するための口実じゃないのか?」「管内の国民から徴収してループして、局所的な国民、つまり被災地の皆さんにあてがうということでしかないのではないか?」という疑問が晴れませんでした。

もちろん、東京近郊の人間は禊を果たすべきだという個々人の倫理にかかる問題もないわけじゃないです。福島に電力を作ってもらっていたのだから、被災したら社会や国家のリスクとして共済や保険の論理(擬似だけど)で、助けなくてはならない*1

ただ、それを徴収するのは東電ではまずいだろう(第三者機関が料金徴収するのは難しいかもしれないけど)。なぜなら「彼らは徴収の余剰分を自分たちの損失に補填しない」と誰が保証してくれるのか?という疑問が晴れないから。

この本は、ブックレット、リーフレットのたぐいなのですが、空虚な文言だけでなく、数字を出しているし、いいこと言っているなと思うのです。本格的な議論をするには、もっと分厚い書面等とも格闘しなくてはならないでしょうけれど、それはプロの仕事ですからご容赦を。

ここまででも十分長いので(私的疑問込みだし)、ここから先、引用抜粋をして本の中身が説得的かどうかの傍証を示すトライについてはお付き合いいただける人だけ覗いてくだされば結構です。とか、お茶を濁しつつ、本の画像で一旦区切ります。

 適宜、強調したりしますが、原文は小見出しのみ太字です。

 

以下が引用・抜粋部分です。 *2

 

燃料費上昇は口実

 2012年に入って、燃料費上昇を「理由」にして東京電力は、4月から企業向けの電気料金を平均で17%値上げすると発表しました。さらに東京電力は、家庭向けについても10%ほど値上げするつもりであると伝えられています。福島第一原発事故を引き起こした東京電力が、経営陣の責任を問われることなく、事故に係わる費用(事故処理費用や賠償費用など)を企業や消費者に支払わせようとしているのではないか。そういう疑いがあります。

 この疑いを打ち消すかのように、東電を除く電力9社の決算でも、燃料費上昇で電力各社は赤字で苦しんでいるとの報道がされました(朝日新聞、共同通信など、2012年1月31日~2月1日付)。福島第一原発事故の処理で債務超過に陥りかけている東電をはずしても、燃料費の上昇が赤字の原因だというわけです。

 しかし、こうした報道には見逃されている点があります。2011年第3四半期(10~12月期)までの電力各社の財務状況(引用者注:表1参照とあるのですが、是非本を手に取ってください)を見ると、原子力発電所原発)を持たない沖縄電力が減益とはいえ黒字を出しています。電源開発も同じです。実は、ここに燃料費上昇=赤字原因論の落とし穴が潜んでいます。

 たしかに、燃料費値上げの影響はないわけではありません。しかし、石油をはじめとする化石燃料の価格上昇は2011年になってからではありません。石油先物価格(WTI)の動向を見ても、イラク戦争を前後して1バレル=30ドルを上回ってから、ジワジワと値を上げて2008年には一時1バレル=150ドル近くまで上昇しました。その後、リーマン・ショックによって下落したものの再び1バレル=100ドルを上回る状況が続いています。しかも、ここ2~3年は天然ガスのスポット市場の価格は下落傾向ですが、電力会社の買取価格は依然として高止まりしています。40年来の古い取引慣行を続けているからです。それでも原発事故があるまでは、電力料金の値上げは行われませんでした。

 しかし、電力料金の値上げがなかったというのは、実は不正確です。電力会社は地域独占の下に、常にコストの上昇に対して利益を上乗せできる総括原価主義*3をとっており、燃料コストの上昇をカバーできる仕組みになっています。

(中略)

 こうした総括原価主義の下では、電力会社は、燃料費が上昇しても、その分が3ヶ月毎に計算されて、申請すると電力料金に上乗せできるのです。実際に、この間も、家庭向けに関しては(燃料)調整費という形で、経済産業省令ひとつでほぼ自動的に電力料金が引き上げられてきました。事実、2011年も何度かにわたって電力料金引き上げが行われ、東京電力はそのほとんどをカバーし、他の電力会社でも少なくとも燃料費上昇の半分は吸収されているのです。燃料費値上げで問題になるのは、建前上、「自由化」されている企業など大口利用者向け分だけなのです。

 より重要なのは、原発が早く停止した電力会社ほど赤字傾向にあるという事実です。大震災が直撃した東北電力はもちろん、四国電力九州電力も、原発が早く止まったところほど赤字が拡大傾向にあります。とくに原発が発電量の半分を占める関西電力は連結ベースでも1181億円の赤字を出しています。実は、燃料費上昇よりも原発が止まったこと自体の影響が大きいのです。

 問題の本質は、危険性が顕在化して安全性が担保できない原発は"不良債権(電力会社側から見ると不良資産)"であるという点にあります。(略)原発停止の影響額は、正確にいえば「燃料費上昇」ではなく、火力発電に振り替えた結果生ずる運転費用(この間の燃料費上昇はその一部にすぎません)の増加分です。問題はそれだけにとどまりません。原発は1基あたり3千億~5千億円ぐらいの建設費がかかります。何基も建てると兆単位の借金を負うことになります。同時に、原発は普通の機械設備と違って、放置しておくと危険ですから多額のメンテナンス費用がかかります。つまり原発は、危険で動かせない状態になると、利益を生まない一方で、借金返済とメンテナンス費用だけがかさんでいく不良資産と化してしまうのです。実は、ここに電力料金引き上げ問題の本質があります。

 電力各社の決算から見るかぎり、原発がすべて止まると、各社の原発依存度で違ってきますが、各社とも少なくとも毎年1千億~2千億円ぐらいの赤字が出て、数年すると自己資本を食い尽くしてしまいます。燃料費の上昇は値上げの口実にすぎないのです。

 

なぜ原発再稼働を急ぐのか

 原発が「不良債権」化したことは、電力会社が原発再稼働を急ぐ背景にもなっています。実際、原発不良債権という本質的問題を隠すために、いくつもの根拠の曖昧なキャンペーンを繰り返して原発の再稼働を急ごうとしています。たとえば、財界などは、「原発が動かないと、停電になる」と国民を脅かしますが、一体何基の原発が必要なのか、根拠となる数字を一切示そうとしません。一部には2011~12年の冬は厳冬なので、停電が起きると脅かす者もいましたが、停電は起きませんでした。今も、どれだけの数の原発が必要なのか、何一つ秩序だった説明がなされていない状況が続いているのです。これでは冷静で客観的な議論ができるはずがありません。

(後略)

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 気になられた方は、以後を買って読んでみてください。議論喚起のための本なので、唯一解があるわけではありませんが、構造問題を示した後、たとえば被災地支援等については代替案や解決策の提示は試みられているようです(背表紙データによる)。